設問1
1 事業者(独占禁止法(以下略)2条1項)である4社及びY社は,西日本地区の顧客と値上げ交渉を開始し,値上げを成功させている[k2] 。この行為が2条6項で定義され,3条後段で禁止されている「不当な取引制限」に当たり,独占禁止法に違反しないか。
2行為要件
(1)「共同して」とは,互いの行為につき石の連絡があることをいう。医師の連絡には相互の認識,認容が必要であるが,黙示の意思の連絡で足り,明示の意思の連絡までは要求されない。黙示の意思の連絡は事前の連絡交渉・事後の行為の一致により推認することができる。
ア本件では,4社は平成20年6月15日に部長会を開催している。当該部長会においてA社のP部長が値上げを打診している。この行為にB社のQ部長は賛同しておらず,C社R部長は是非の態度を明らかにしていない。しかし,その後Aは,甲の値上げ交渉を開始する旨のメールを送信し,B・C・D社は結果的に追随している。従って,事前の連絡交渉・事後の行為の一致が存在するといえ,4社は「共同して」いるといえる。
イ一方,Y社はAに追随して値上げしているものの,AY間で何らかの交渉があったわけではなく,Yは新聞発表によってAの値上げを知ったに過ぎない。Yの行為は意識的協調行為[k3] にすぎず,AとYは「共同して」とはいえない。
(2)「相互…拘束」とは,競争関係にある事業者が,相互に共通の拘束を課すことをいう。本件では,4社は甲製造販売において競争関係にある。そして,顧客との値上げ交渉を行うということを協調して[k4] 行っているので,相互に共通の拘束があるといえる。従って,「相互…拘束」があるといえる。
(3)「共同…遂行」とは相互拘束の行使態様の一つであり,独立の要件としての意味を有しない。
3(1)では,「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」といえるか。
(2)ア「一定の取引分野」とは,競争が行われる場,すなわち市場を言い,市場は商品市場・地理的市場からなる。市場は需要の代替性を基礎に,供給の代替性を加味して画定する。
イ本件では,輸入品は国内製品より品質が劣っているため,海外製品は問題とならない。そして,工場立地等の関係から,東日本地区と西日本地区で甲の市場占有率の比率が大きく変わっている。よって,地理的市場は西日本地区[k5] に画定できる。
エよって,本件における市場は「西日本地区における甲製造販売市場」である。
(3)ア「競争を実質的に制限する」とは、事業者がある程度自由に価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することによって、市場を支配できる状態をもたらすことをいい、市場支配力の形成、維持、強化と同義[k7] である。
イ[k8] 本件では,西日本地区における甲製品の製造販売市場における4社のシェアは32%,24%,14%,10%であり,合計して80%と多大である。そして,本件ではYも追随して値上げを行っているので,残るはシェア10%のXとシェア2%の輸入品のみである。各社の製造設備は従前の取引量を前提としているため,短期的な増産は難しいうえ,輸入品は低品質であるため市場占有率が上がる見込みがないといえる。さらに需要者との取引は固定的な関係にあるため取引先変更の可能性は低いといえる。
従って,4社は値上げが可能な状態,すなわち市場支配力を有しているといえ,「競争を実質的に制限」している。
(4)以上より,4社は「一定の取引分野における競争を実質的に制限」している。
5 以上より,4社が値上げ交渉を行う行為は「不当な取引制限」(2条6項)として3条後段に反し独占禁止法に違反する。
なお,Y社の行為は4社と「共同して」いないため独占禁止法違反とならない。
設問2
1 事業者(2条1項)である4社は平成23年2月15日開催の部長会で甲の販売価格引き上げについて話し合っている[k10] 。この行為が2条6項で定義され,3条後段で禁止されている「不当な取引制限」に該当し,独占禁止法に違反しないか。検討する。
2(1)4社は平成23年2月15日開催の部長会において話し合いの機会を持っており,「共同して」といえる。
(2)「相互…拘束」があるか。4社は実質的競争関係にある事業者である。Cを除く3社は4月10日に開催された部長会に参加し,値上げ交渉を行っているので,「相互…拘束」があるといえる。
本件のような価格カルテル類似行為からの離脱が許容されるためには,単に参加を取りやめるだけではなく離脱の意思の表明が必要であるといえる。
本件では,Cの値上げを行わない方針のもと,部長Gは4月の部長会に参加せず,値上げ交渉を行っていない。しかし,Gは部長会欠席理由として「急に別の予定が入った」と言っており,離脱の意思の表明をしていない。したがって,いまだCはカルテルからの離脱があったとは言えない。
よって,Cを含む4社に「相互…拘束」があるといえる。
3(1)設問1同様,市場は西日本地区における甲製造販売市場である。
(2)そして,本件では4社は価格カルテル類似行為を行っている。これは競争制限以外を目的としないハードコアカルテルなので,カルテルの実効性が確保されている場合,競争の実質的制限が事実上推認される。
本件ではDは大口取引先に拒否されるなどしたために結果として値上げに成功していないが,カルテルの実効性はカルテルを行った時点の客観的可能性から判断する。本件では2月の部長会の段階でシェア80%を有する4社がカルテルを行っていたのであるから,この段階で実効性が確保されていたといえ,Dが値上げに成功しなかったとしてもカルテルの客観的可能性はあったといえる。
よって,カルテルの実効性は確保されていたといえ,推認を覆す事情もないため,「競争を実質的に制限」していたといえる。
(3)以上より,4社は「一定の取引分野における競争を実質的に制限」している。
4 値上げを行おうとしている理由は乙価格の高騰であり,設問1同様「公共の利益に反して」といえる。
*感想
離脱の論点を設問1で書くのではないのか,と思い,少し混乱した。
書くことが多く,整理して書けたかどうかは自信がない。
論理矛盾を犯している可能性もあり,20点くらいとれればいい方かと思う。
第2問
第1 方策①について
1 方策①は,事業者(独占禁止法(以下「法」とする)2条1項)であるX社が,薬局・薬店に対し,甲を専ら一般消費者に対してのみ販売するよう要請するものである。この行為が一般指定(以下略)12項,法2条9項6号で定義され,法19条で禁止されている不公正な取引方法のうちの拘束条件付取引に該当しないか。以下検討する。
2 「拘束する条件」とは,契約によって縛られている必要はなく,何らかの人為的手段を用いて条件を守らせることで足りる。
本件においては,Xは薬局薬店に要請を行おうとしている。しかし,方策①の段階では要請に従わなかった場合に何らかの拘束を用いて強引に従わせようとしているわけではなく,単に要請を行っているだけであるといえる。
したがって,人為的手段を用いて条件を守らせようとしているわけではなく,「拘束する条件」に該当しない。
3 よって,方策①をとったとしても独占禁止法上の問題は生じない。
第2 方策②について
1 方策②は,①を順守させるため,Xが代理店卸売業者に監視を義務付け・従わない薬局薬店には甲の販売をしないようにさせるものである。この行為が,代理店卸売業者には12項・法2条9項6号で定義される拘束条件付取引に,薬局薬店には2項後段・法2条9項6号で定義される単独の間接の取引拒絶に当たればそれぞれ法19条で禁止されているので,独占禁止法上問題となる。以下,順に論じる。
2 12項について
(1)本件では,Xは代理店卸売業者に監視を義務付けている。そして,甲を指名する消費者も少なくないことから,甲を揃えておくことが不可欠となっている現状において,方策②の段階で要請に従わなかった場合には,代理店卸売業者はXとの取引を拒絶される可能性があり,要請を行っているだけとは言えない。
よって,代理店卸売業者との取引拒絶という人為的手段をたてにして当該条件を守らせようとしているといえ,「拘束する条件」が存在する。
(2)ア「不当に」とは、「公正な競争を阻害するおそれ」(法2条9項6号)と同義である。拘束条件付取引においては、公正競争阻害性のうちの自由競争減殺効果が問題となる。自由競争減殺は市場支配力の萌芽段階の力の形成・維持・強化のことを意味する。そして、「不当に」との規定文言から、自由競争減殺効果の個別的認定が必要である。
イ市場支配力の認定に当たっては,前提となる市場につき画定する必要がある。市場は、地理的市場・商品役務市場により画定される。画定基準は、需要の代替性を基礎として、供給の代替性を加味して行う。
本件において,αの類似商品としてβが存在する。βの栄養成分はαとほとんど異ならない。しかし,多くの消費者にとってαに劣後する栄養食品に過ぎないと考えられており,αの価格を引き上げてもβが代替するとは言えない。一方,甲はXの知名度の高さ,CM展開などが成功し,人気商品ではあるものの,人気はあくまでαの中で人気があるという物であり,甲が大きく値段を上げれば消費者は他のα製品に買い替えを行うことが容易に想像できる。以上より,商品市場はα製造販売市場に画定できる。
以上より,市場は「α製造販売市場」である。
ウ自由競争減殺効果が生じる場合とは,本件はインターネット販売業者を排除しようとしているので排他条件付取引(11項)の規律を使用する。すなわち,①拘束条件付取引を独禁法上違法な行為の実行を確保する手段として用いる場合,もしくは②市場における有力な事業者が、拘束条件付取引を行い、これによって競争者の取引の機会が減少し、他に代わりうる取引先を容易に見出すことができなくなるおそれがある場合に限られる。
本件では,Xはインターネット販売業者に対する薬局薬店の販売を阻止するために代理卸売業者に対し拘束を行っている。薬局薬店のインターネット販売業者に対する販売阻止は取引拒絶(2項)に該当する行為であり,本件拘束は①拘束条件付取引を独禁法上違法な行為の実行を確保する手段として用いる場合[k14] であるといえる。
エよって,自由競争減殺が存在し,公正競争阻害性があるので,「不当に」といえる。
(3)もっとも,本件では,(a)(b)の理由で販売制限を行ったので,拘束条件付取引の正当化事由とならないか。
確かに,(a)は栄養機能を,(b)は品質劣化を理由としており安全という「一般消費者の利益」に資するかとも思える。しかし,(a)[k15] はホームページへ用法容量などを記載することにより消費者に栄養機能を十分に発揮させることは不可能ではない。さらに,Xがもっとも危惧しているのは安売りによって甲のブランドイメージが損なわれることである。ブランドイメージとはひいては自らの製品をより高くより多く売りたいという企業経営上の合理性の発露といえ,正当化事由となりえない。
よって,本件で拘束条件付取引を正当化する理由はない。
(4)以上より,Xの方策②は代理店卸売業者にとって拘束条件付取引(12項・法2条9項6号)に当たり,法19条に違反するため独占禁止法上の問題が存在する。
3 2項後段について
(1)本件では,Xが卸売代理店業者をして「ある事業者」であるインターネット販売業者に甲を売る薬局薬店「に対し」甲を販売しないようにさせるものである。よって,「取引を拒絶…する行為をさせ」ている。
(2)ア「不当に」といえるか。取引拒絶の公正競争阻害性も自由競争減殺といえる。「不当に」との文言から自由競争減殺効果の個別的認定が必要である。
イ市場は拘束条件付取引と同様α製造販売市場である。
ウ私人間においては原則として取引先選択の自由が尊重されるので,自由競争減殺が生じる場合は①取引拒絶を独禁法上違法な行為の実行を確保する手段として用いる場合,もしくは②市場における有力な事業者が、競争者を市場から排除するなどの独禁法上不当な目的を達成する手段として、取引拒絶を行い、これによって取引を拒絶される事業者の通常の事業活動が困難となるおそれがある場合に限られる。
②にあたるか。Xはα製造販売市場においてシェア40%で第1位なので有力な事業者に該当する。Xはインターネット販売業者に甲を販売する薬局薬店との取引拒絶を行うことによってインターネット販売業者という競争者に甲の販売をさせず,α販売市場から排除する目的を有している。そして,甲を指名して購入する消費者も少なくなく,栄養機能食品の販売業者にとっては取り揃えておくことが不可欠の製品であることから,甲の取引ができなくなることによって取引を拒絶される薬局薬店通常の事業活動が困難となるおそれがあるといえる。
エよって,自由競争減殺が存在し,公正競争阻害性があるので,「不当に」といえる。
(3)拘束条件付取引の場合と同じく,(a)(b)は正当化事由となりえない。
(4)以上より,Xの方策②は薬局薬店にとって単独の間接の取引拒絶(2項後段・法2条9項6号)に当たり,法19条に違反するため独占禁止法上の問題が存在する。
第3 なお,Xのシェアは40%にすぎないので,私的独占(法3条前段)は成立しない。
0 件のコメント:
コメントを投稿