2012年6月1日金曜日

2012刑事系第1問(再現)

現在選択と刑事系・憲法が終わりました。
とりあえず今まで終わった分アップします。



1[q1]  甲の罪責

1「社員総会議事録」作成について

(1)ア甲は代表社員甲の名前で社員総会議事録を作成している。社員総会議事録は私人たる甲が作成し,議事録記載の社員総会が存在したことを可読的符号で示すものなので私文書であり,「事実証明に関する文書」にあたる。甲の議事録作成行為が私文書偽造罪(刑法(以下略)159条1項)にあたるか。

イ 甲はDから融資を受ける際の担保に本件土地を担保に供するために議事録を作成しており,「行使の目的」が存在する。

ウ 甲は議事録に「代表社員甲」として署名,押印している。当該行為が「偽造」にあたるか。偽造の意義が問題となる。

文書に関する罪の保護法益は文書に関する公共の信頼である。したがって,「偽造」とは公共の信頼を害する態様で人格の同一性を偽る行為といえる。

 本件では,甲が代表社員甲名義で署名・押印している。主体と作成者はともに甲であり,人格の同一性を偽っていないかとも思える。しかし,社員総会議事録の意義は,有効な社員総会が行われたことを証明するというものであり,甲が「代表社員」としての地位を有すると信頼されることが書面に対する信頼を確保するうえで重要となる。従って,社員総会を実際に行っていない本件では,甲と「代表社員甲」は別個の主体を意味することになる。

よって,甲が本件で「代表社員甲」として署名押印する行為は人格性の同一性を偽る行為といえ,「偽造」にあたる。

エ よって甲には(ア)「社員総会議事録」についての私文書偽造[q2] 罪(159条1項)が成立する。

(2)そして,甲はDに社員総会議事録を示し,本件土地を担保に供するために「行使」しているといえ,(イ)「社員総会議事録」についての偽造私文書行使(161条1項)罪が成立する[q3] 

2 1億円の受領について

(1)甲がDから1億円を受領した行為が詐欺罪(2461項)に当たるか。

(2)詐欺罪の要件[q4] は①欺く行為、②相手方の錯誤、③錯誤に基づく処分行為、④損害、が⑤因果関係を有し、⑥故意に包摂されている必要がある。

(3)ア本件で甲は、実際には社員総会が開催されていないにもかかわらず、開催されたように装い、社員総会議事録をDに交付している。この行為は①欺く行為に該当する。

イそして、Dは甲から議事録を交付されたことで1億円の融資の担保として本件土地を供することが可能であるとの②錯誤に陥っている。

Dは、土地を担保に受けたことを理由に1億円の融資として甲に1億円を交付しており、③処分行為が存在する。

Dは相応の担保を要求したことから、融資のためには相応の担保が必要であると考えているといえ、本件土地へ抵当権がつけられることがなければ融資を行わなかったであろうといえる。したがって、1億円の交付行為それ自体が④損害といえる。

オ①~④は社会通念上⑤因果関係が存在する[q5] 

カそして、甲は本件土地の処分権限があるとDに誤信させて融資を受けており、詐欺の⑥故意がある。

(4)以上より,甲には(ウ)Dに対する1億円の詐欺罪(246条1項)が成立する[q6] 

3 本件土地に抵当権設定登記を行った点について

(1)甲はAの所有する本件土地にD名義の抵当権設定登記を具備しているが、この行為が業務上横領罪(253条)とならないか。

(2)「業務」とは人が反復継続して行う仕事を言う。甲はAの代表社員として不動産の処分・管理を反復して行っており、本件土地への抵当権設定についても「業務」の範囲内といえる。

(3)ア「占有」とは委託信任関係に基づく事実上・法律上のものをいう。

イ本件では、本件土地をはじめとするA社所有不動産の処分・管理権は代表社員たる甲が有しており、Aの委託に基づく甲の法律上の占有があったといえる。

(4)「他人のもの」とは、他人の所有権を言う。本件土地はAの所有権に属する。

(5)「横領」とは、不法領得の意思の発現をいい、横領罪における不法領得の意思とは、委託の任務に背いて目的物をほしいままに扱うことを言う。

本件では、抵当権設定行為は本来所有者でなければできない行為である。にもかかわらず、甲は、Aの所有物である本件土地にAの意思に背いてDのための抵当権を設定している。よって、不法領得の意思の発言があるといえ、「横領」行為が存在する。

(6)以上より,甲には(エ)Aに対する本件土地についての業務上横領罪(253条)が成立する。

 なお,横領の罪は横領行為時に既遂となるので,甲が後にD名義の抵当権設定登記を抹消したことは横領罪既遂の成立に対する障害とならない。

4 Eに本件土地を売却した行為について(Aに対する罪)

(1)甲はAの所有する本件土地をEに売却している。この行為が業務上横領罪(253条)とならないか。

(2)土地の処分・管理はA社代表社員である甲の業務といえる。そして、抵当権を設定されていたとしても本件土地は「他人」であるA「のもの」であり、甲はA社代表社員たる地位に基づき法律上の「占有」をしている。

(3)では、甲の行為が「横領」にあたるか。本件土地はすでに抵当権設定により横領されているため、横領物を新たに横領することができるか、問題となる。

横領物であっても、「自己の占有する他人の物」である限り、新たに横領による法益侵害は想定できる。一つのものにつき二度の横領が成立する場合にも、より大きな法益を侵害している行為に軽い行為から生じる罪を吸収させれば科刑上の不都合はない。よって、横領物に対する横領行為は可能である。

本件では、抵当権を設定されているものの、なお本件土地は甲が法律上占有を行うAのものであった。その土地をEに売却することで、新たにAの所有権を侵害する行為がなされているといえ、不法領得の意思の発現が存在するといえる。よって、「横領」がある。

(4)以上より,甲には(オ)Aに対する本件土地についての業務上横領罪(253条)が成立する。

5 Eに本件土地を売却した行為について(Dに対する罪)

(1)本件土地はAの所有物であり、Dは所有権を有しないため、「他人のもの」という要件を満たさず、Dに対する横領の罪は成立しない。

(2)アでは、背任罪(247条)は成立しないか。

 抵当権設定者は、抵当権者のために目的物の担保価値を維持する義務[q7] を有しており、担保価値維持は「事務」といえるので、甲は「他人のためにその事務を処理する者」といえる。

イ本件では、甲はEに本件土地を売却することで1億円の代金を得ることとなる。代金は甲自ら使用する目的であったので、甲には「自己」「の利益を図」「る目的」があるといえる。

ウ甲の「任務」の中には、抵当目的物の担保価値を維持する行為も含む。甲はEに本件土地を売却することで、対抗要件である抵当権設定登記(民法177条)を有しないDEに抵当権を対抗できないようにしている。したがって、甲は「任務に背く行為」を行っている。

エそして、DEに自らの有する抵当権を対抗できないことにより、1億円の融資に対する担保を失うこととなっている。よって「本人」たるDに「財産上の損害」が生じたといえる。

オ 以上より,甲には(カ)Dに対する本件土地の抵当権についての背任罪(247条)が成立する。

6 罪数

 以上より,甲には(ア)~(カ)の罪が成立する。アとイ,アイとウは通例的に手段と結果の関係にあるので牽連犯(54条1項後段)となる(キ)。エはオに吸収され,オとカは一つの実行行為で行われているので観念的競合(54条1項前段)となる(ク)。キとクは併合罪(45条前段)として処断される。[q8] 

第2 乙の罪責


(1)乙は、本件土地をEに売却するように甲を説得している。この行為によって、乙は甲の(オ)(カ)の罪の共同正犯(60条)とならないか。

(2)共同正犯(60条)の処罰根拠は共同正犯者同士が相互に利用し、補充しあう関係に立つことにより、法益侵害が物理的心理的に容易になる点に求められる。

したがって、共同正犯が成立するためには犯罪の共同実行の意思に基づき、共同実行行為が行われる必要がある。ここで、共同実行の意思とは、自己が正犯として自己の犯罪を行う意思であることが客観的状況から認定できることを言う。

共謀者の一部が実行行為を行っていない場合も共同実行の意思が存在する場合であることは同様であり、上記要件により共同正犯として認められる。

(3)ア本件においては、乙は積極的に甲に対し売却行為を持ちかけている。加えて、報酬を1000万円得ているため、共同正犯としての意思を有するとも思える。

イしかし、乙は実際に本件土地を売却しうる地位にはなく、あくまで甲に働きかけることしかできない。乙の行為によるADに対する法益侵害は間接的といえる。報酬に関しても「仲介手数料」という名目であり、もう一方の当事者である乙からも300万円の手数料を得ていることから、乙本人の意思としては自己の犯罪を行うものとはいえず、教唆(611項)を行っていたに留まると考えるべきである。

(4)よって,乙は(あ)甲のオ・カの罪についての教唆犯[q10] (61条1項)としての責任を負う。

2 あっせん行為

 乙は甲がEに対して本件土地を売却する行為につき、書類交付行為を行うなどして、あっせんしている。本件土地は横領・背任の目的物であり、「財産に対する罪に当たる行為によって領得された物」(256条1項)である。よって,乙には(い)本件土地所有者Aの追求権を侵害する盗品等有償処分あっせん罪(256条2項)が成立する。

3 罪数

 以上より,乙には(あ)(い)の罪が成立し,これらは併合罪となる。

 なお,教唆犯でも盗品等に関する罪を犯さないことについての期待可能性が存在するので,(い)は不可罰的事後行為とならず,併合罪として処断される。






*感想

比較的良くかけたと感じている科目。でも所々にミスがあることを見つけた。

主なミスとしては、「有印」落としとあっせんを先に書いてしまい、消してしまったこと。感想は、事実認定力が出しにくい、要件要件した問題だった、というものがある。

 教唆が評価されるのであれば60点くらいは付いていると思う。








 [q1]全体合計で6.6ページ記述。0.4ページ消したので、実質的に6.2ページ記述



 [q2]「有印」落とし



 [q3]ここで1.1ページ



 [q4]抜き書きできず



 [q5]どう認定したか忘れたが、もう少し丁寧にした(2行くらい)



 [q6]ここで1.9ページ



 [q7]このあたりで一度民法177条を出して説明していたような記憶がある



 [q8]ここで4.8ページ



 [q9]ここで先に盗品あっせんについて論じてしまい、0.4ページ消す



 [q10]共同正犯と迷ったが、乙から仲介手数料をもらっていること、あっせんの罪を書くべきであることを重視し、教唆に。

ここがどう評価されるかで点数が変わってくると思う。



 [q11]7ページ目後半にさしかかったところで終了

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