第1 捜査①について
1 捜査①は乙宛の荷物の開封行為である。開封にあたり乙の同意はなく,荷物には乙のプライバシー権が及ぶ。よって,捜査①は「法律に特別の定のある場合でなければ」することができない行為である強制処分[k2] (刑事訴訟法(以下略)197条1項但書)にあたる。
本件では,Kは裁判官から捜索差押許可状(218条1項)の発付を受けているが本件捜査①が当該令状の範囲内といえるか。以下検討する。
2 捜索差押に令状を要求した趣旨は,裁判官による事前の司法審査を経ることによって過度に捜査対象者の人権侵害がなされることを防止する点にある。従って,令状の範囲は,令状発付の際に裁判官の予測した範囲に限定される。[k3]
3(1)本件では,まず,荷物は捜索が開始した以後の午後3時16分に届いている。捜索開始後に届いた荷物に令状の効力が及ぶか。
本件の被疑事実は営利目的覚せい剤所持である。令状にも「営利の目的・・・」と記載されている。営利目的の所持であれば,仕入れが行われること,その仕入れが頻繁に行われることも十分予測可能である。
さらに,本件では,荷物開封前に適法に差し押さえられた携帯電話のメール内に「ブツ」「さばく」など,覚せい剤の売買を示唆する文言があった。メールでは10月5日午後3時過ぎに荷物が届くと記載されている。荷物は午後3時16分に届いている。さらに,伝票記載の送り主「U株式会社」は実在せず,メール送り主丙が当該荷物を送った者であると推認可能である。よって,本件メールの対象が当該荷物であり,「ブツ」であることが推認できる。
そして,「ブツ」「さばく」などといった直接的ではないものの覚せい剤のやり取りを示唆するメールがあるうえ,開封時点ではいまだ覚せい剤それ自体は見つかっておらず,これから仕入れる予定であったといえる。よって,荷物を受け取った段階で「ブツ」である荷物が覚せい剤であることが強く推認できるといえる。
(2)ア次に,本件では,令状記載の被疑者は「甲」であるのに,Kは乙宛の荷物を開封している。このことが許されるか。
イ捜索差押令状は「氏名」(219条1項)を要件としており,原則として令状記載の者と捜査客体が同一であることが求められる。もっとも,事実上令状記載の者に対する捜索である場合には,捜索を行っても人権侵害が過度になされることはなく,例外的に許容される。
ウ本件では,メールの内容は信用できるもの[k5] であるといえる。「乙宛の荷物」は甲・乙2人でさばくこととなっている。そうであるとすれば,荷物はT社に届いた後,甲・乙がさばくこととなり,本件の乙宛の荷物は事実上甲・乙に届いたといえる。
エよって,本件荷物の開封は事実上甲の荷物を開封することと同視でき,令状の範囲といえる。
第2 捜査②について
1 令状に基づく捜索(218条1項)
(1)本件捜索は乙が拒否しているにもかかわらず,それを無視してロッカーを開場している。ロッカー内には乙の私物が入っており,本件捜索は乙のプライバシーを侵害するものであるので,強制処分にあたる。
(2)では,本件捜索差押令状に基づく捜索(218条1項)として本件捜索が適法といえるか。「甲」を対象とする令状なので,事実上甲に対する捜索といえるか。
本件においては,ロッカーはT社の物であり,甲が管理するものである。しかし,ロッカーは乙が使用し,中には乙の荷物が入っているため,ロッカー内には乙のプライバシー権が及んでいる。従って,ロッカーを開錠し,捜索を実施することは乙のプライバシーを侵害する行為であり,事実上甲に対する捜索とは言えない。
(3)よって,捜査②は本件捜索差押令状の範囲外であり,令状に基づく捜索としては許容されない。
(1)本件では,適法な捜査①により覚せい剤が発見されている。したがって,乙は「現に罪を行」ったといえるので,現行犯逮捕は適法である。(212条1項,213条)
イ220条が逮捕に伴う捜索差押を無令状で行うことができるとした趣旨は,逮捕の現場や逮捕する場合には証拠の存在する蓋然性が高いため,裁判官の令状による審査を介在させる必要性が低い点にある。
従って,「逮捕の現場」(220条1項2項)とは証拠の存在する蓋然性が高い場所,すなわち被逮捕者の管理処分権の及ぶ範囲も含む。
ウ本件においては,ロッカー自体は甲の管理であるが,社員である乙がロッカーを使用し,鍵も乙が所持している。そして,中の荷物は乙の私物であるので,ロッカー内部は乙の管理処分権に属するといえる。
エよって,乙が逮捕されたT社社長室の隣の更衣室のロッカー内部は「逮捕の現場」といえる。
設問2
第1 本件では,公訴事実の第1事実に対し罪となるべき事実の第1事実においては「丙と共謀の上」という文言が加わっている。このような事実を認定したことにつき,判決内容・手続は適当といえるか。裁判所の審判対象は検察官の設定する具体的事実である訴因であるため,訴因変更(312条1項)の手続きが必要なのではないか,検討する。
1 共謀の認定に訴因の変更が必要であるのであれば,裁判所としては訴因変更命令を行うことが考えられるが許されるか。
2 公訴の提起は検察官の専権である。(247条,248条)裁判官が検察官の提示した訴因と異なる心証を持ったとしても,命令によってその基礎権限を拘束することは許されない。
2 「訴因を明示」「特定して」との文言から,訴因制度の機能としては,①裁判所にとり他の事件と本件を区別する識別機能と,②被告人にとって自らの防御活動の対象を決定するという防御機能が存在する。したがって,訴因の①②いずれかの機能を害する場合には訴因変更が必要となる。
3(1)ア本件では①識別機能を害するか。
イ訴因の識別機能を害する場合とは,事実が変化することによって別の事件になってしまうというような場合,すなわち訴因の認定に不可欠な事実が変化する場合をいう。
ウ本件では,「丙と共謀の上」という文言が加わっただけで,営利目的覚せい剤所持罪(覚せい剤取締法41条の2第2項,1項)を識別するのに必要な「営利の目的」「平成23年10月5日」「T株式会社社長室」「100グラム」などの事実は変わっていない。したがって,「営利の目的で」「覚せい剤を…所持」という構成要件を判断するために不可欠な事実は変化していないといえる。
(2)アでは,②防御機能を害するか。
イ被告人にとって重要な事実が変化する場合には,防御対象が変化するので,原則として被告人の防御機能を害するといえる。もっとも,例外的に被告人にとって不意打ちとならず,不利益にならない場合は被告人の防御にとって重要な事実が変化する場合でも被告人の防御機能を害しないといえる。
(イ)もっとも,本件では,共謀の事実について甲の弁護人の側から主張している。実際に甲本人も捜査段階から自白している。共謀の事実を加味した防御活動を行っているといえるので,共謀の事実を認定したとしても不意打ちにならない。
さらに,丙との共謀を立証することによって甲らと丙との間に共謀がない場合よりも犯情が軽くなるため,共謀を認定することによって甲に不利益はないといえる。
加えて,本件では検察官は丙との間の共謀については立証できないと判断したため共謀の事実を主張していないとしている。しかし,共謀の事実が認定された場合には丙の手足として甲が動いていたと認定されることにより,甲の犯情に有利となる。そのことを予期して検察官が起訴しなかったとするのであれば,訴因変更がなかったとしても一方当事者である被告人の側から所長があるのであれば裁判官は共謀事実を認定すべきであるといえる[k16] 。
エ以上より,②防御機能も害しない。
4 よって,本件においては訴因変更の必要がない。
第4 結論
以上
*感想
配られた瞬間唖然とした。捜査でももう少しきちんと書くべきであったなと反省している。宅配便のところの規範が事実上ない気がする。捜索の条文が出せなかった。
訴因に引きずられてはならないと思いながらも,他の論点が分からず,結局書いたのは訴因だけ。最後の価値判断的な記述がどこまで評価されるか。
普通に採点されれば35点,良くて42~43点くらいだと思う。
刑事系全体の予想は85~105。刑法がはねた(であろう)去年と比較し,刑法は跳ねず,刑訴が去年と同様沈んだ気がするので,95取れれば御の字か。
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