第1 提起すべき訴訟
本件助成が違憲であることを主張するDが提起すべき訴訟としては,①助成行為を処分とみて,助成行為の取消訴訟(地方自治法(以下「法」とする)242条の2第1項2号)と,②助成としてB村村長がA寺に支出した計7500万円についての不当利得返還請求をすべき旨をB村執行機関[q2] に求める訴訟(法242条の2第1項4号)が考えられる。
第2 憲法(以下略)20条1項・3項・89条前段違反の主張
1 本件訴訟において,本件支出が憲法に違反するのであれば,支出が「財産の管理を怠る事実」(法242条1項[q3] )であるとして,Dの提起した訴訟が認められることとなるので,以下憲法上の主張を述べる。
2(1)まず,DはB村の公金支出は政教分離原則(20条3項)違反であると主張する。政教分離原則は,信教の自由(20条1項)を制度的に保障するものであり,公権力と宗教は厳格な分離が求められるにもかかわらず,本件BはAに助成をしているのでこの点が政教分離原則に違反する公金支出であるとして,20条1項・3項・89条前段に違反すると主張する。
さらに,Dは過去にA寺の墓地に墓石を建立できなかったことがある。そうであるとすれば,Aはすべての人に門戸を開いている宗教ではないと言える。そのような宗教団体に対する公金の支出はDの宗教的人格権[q4] を害するので,この点において20条1項に違反するといえる。
(2)そして,信教の自由は精神的自由権の一つとしてそれに対する制約は厳格になされる必要がある。信教の自由を制度的に保障する政教分離原則についても同様である。したがって,「宗教的活動」(20条3項)該当性については厳格に判断する必要がある。[q5]
(3)よって,「宗教的活動」とは,活動の目的が宗教的意義を有し,その効果が特定の宗教を援助助長促進または圧迫干渉するものである。このような宗教的活動を行っていた場合,20条1項・3項・89条前段に違反するといえる。
3(1)[q6] 本件では本堂再建の助成金として4000万円,庫裏再建の助成として1000万円,墓地の整備を含めた土地全体の整地の助成として2500万円を公金支出している。まず,本堂と庫裏への支出についてはいずれも助成の目的は宗教的意義を有するといえる。A寺は,C宗という宗教団体の末寺であり,A寺の本堂・庫裏はまさに宗教施設といえるからである。
さらに,墓地の整備を含めた土地全体の整備も目的は宗教的意義を有するといえる。墓地は人倫の大本といえる行為の場であり,宗旨,宗派を問わず埋葬を受け付けているので墓地は宗教的施設といえないという反論が想定できるが,DがA寺の墓地に両親を埋葬したいと申し出た際に,C宗の典礼方式を受け入れなかったことで埋葬を拒否されている。典礼方式に従わない者を埋葬しないという点で宗派に従うものとそうでないものを選別しており,墓地は人倫の大本[k7] という性質というよりもC宗に従う者を埋葬する宗教施設としての性質を有するといえるのである。以上より,宗教施設たる墓地の整地の助成を行うことは宗教的意義を持つ行為といえる。
(2)そして,人口わずか1000人のB村において計7500万円は大金である。実際に庫裏・土地の1/2,本堂債権の1/4を占める金額を助成することにより,再建は容易になるといえる。製材工場やその関連建物を助成しないにもかかわらずA寺に対し助成することは,B村がA寺,ひいてはC宗を援助助長するものであるという効果を有するといえる。
(3)よって,本件助成は「宗教的活動」といえる。
4 以上より,本件助成は憲法20条1項・3項・89条前段に反し,違憲である。
第3 89条後段違反の主張
1 仮に,本件助成が憲法20条1項・3項・89条前段に反しなくても,「公の支配」に属しない団体に助成を行っていたのであるから,89条後段に反する。
3 本件では,B村とA寺は何ら関係がなく,B村の支配がA寺に及んでいるとは言えない。
4 よって,本件助成は少なくとも89条後段に違反する。
設問2
1 まず,被告B村村長はそもそも本件訴訟が法律上の争訟(裁判所法3条1項)に当たらないため,却下されるべきであると主張する。
2 法律上の争訟とは,法律を用いて終局的に解決することができる法律上事実上の紛争であり,具体的事実関係を前提にするものである。
本件では,C宗のA寺に対する助成が問題となっているものの,裁判所が判断すべき事項は助成の適法性であり,「財産の管理を怠る事実」の解釈の前提として不可欠な手続に宗教上の判断を必要とする事情[k10] もない。
3 よって,本件訴訟が法律上の争訟に該当せず,却下されるべきとする被告の主張は認められない。
第2 20条1項・3項・89条前段違反の主張について
1(1)まず,B村村長は,そもそもDに宗教的人格権が保障されていないため,その侵害が観念できないという反論をすることが考えられる。
(2)人は宗教を信仰するにあたって他者に寛容であることが求められる。そうであれば,仮に宗教的人格権が観念でき,20条1項で保障されるとしても,他の宗教を信仰する者が助成金を受けることによりその宗教的人格権が侵害されるとは言えない。助成を受けることにより具体的な不利益が生じるとは言えないからである。
2(1)さらに,B村村長は本件助成が「宗教的活動」(20条3項)に該当しないため,助成を行っても20条1項・3項・89条前段に反しないと主張する。
(2)宗教的活動に該当するか否かの基準としては,原告主張の通り目的が亜宗教的意義を有し,手段が特定の宗教を援助助長促進または圧迫干渉する行為といえるかという基準で判断すべきである。
(3)ア(ア)本件では,本堂への助成については宗教的意義が小さいといえる。本堂は村民の交流の場となっているほか,心理的ストレスに対する相談を受け付けているところ,檀家でない村民も相談に訪れている。したがって,本堂は村の公民館類似の役割を果たしているといえるのである。C宗A寺の所有物として宗教施設である点は否定できないが,本堂の使用方法からして相当程度公共の役割を有しているといえるのである。このような施設に対する助成は宗教的意義が小さいものであるといえる。
(イ)墓地については,「正当な理由がなければ」埋葬を拒んではいけない(墓地,埋葬等に関する法律13条)。「正当の理由」とは同法1条の趣旨から宗教的感情を考慮することも許される。本件では,Dの両親の埋葬を拒んだ理由はC宗の典礼方式にDが従わなかったからである。当該拒否は「宗教的感情」から考えれば「正当な理由」にあたる。
イ 本堂については,再建のための助成費用として支出されたのは4000万円と高額であるものの,再建に必要な費用の1/4にとどまる。本堂の公的役割を考えれば,再建費用の一部支出を村の資金で行うこともやむを得ないといえる。したがって,本堂に対する支出はC宗A寺を援助助長するとは言えない。
一方,墓地と庫裏についての支出は債権に占める割合もそれぞれ1/2と多くの部分を占める上,宗教施設に対する支出であるのでB村がA寺を援助助長していると一般村民に思わせるには十分な効果を有するといえる。
(4)以上より,本堂に対する助成は「宗教的活動」といえないが,墓地・庫裏に対する助成は「宗教的活動」である。
3 以上より,本堂に対する4000万円の助成は「宗教的活動」といえず,合憲であるが,墓地・庫裏に対する計3500万円の助成は「宗教的活動」であり,20条1項・3項・89条前段に違反する。
第3 89条後段違反の主張について
1 A寺は「公の支配」に属する団体といえ,本堂への助成4000万円は89条後段に反しないと被告は反論する。
2(1)公の支配とは事実上密接に関連していることで足りる。
(2)本件では,A寺本堂は事実上B村の公民館のような役割を有しており,事実上B村と密接に関連しているので,「公の支配」があるといえる。
3 以上より,A寺に対するB村の助成は89条後段に反しない。
以上
*感想
政教分離という論点には山を張っていたが,書くことが分からず(少なすぎるのではないか)と思い,混乱してしまった。もう一度答案を書きなおせるのであればもっと整理して書けると思う。終わった直後は場合分けを行ったので,なかなかいいのではないかと勘違いしていたが,再現することでひどさに気付いた。40点あればいいが…
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