1 「処分」(行政事件訴訟法(以下「法」とする)3条2項)とは,公権力の主体たる国または公共団体のうち,その行為によって国民も権利義務を形成し,またはその範囲を確定することが法律上認められている行為をいう。
2 本件では計画決定は公権力の主体たる公共団体であるQ県が行っている。
3(1)では,Pその他の国民の権利義務を形成し,またはその範囲を確定することが法律上認められている行為であるといえるか。本件では,計画そのものによって権利変動があるか,直接性の有無が問題となる。
(2)ア最高裁判所は,平成20年9月10日の判決(以下「参考判例」)で,土地区画整理事業の事業計画の決定につき処分性を認める判例変更をしている。参考判例の射程が都市計画決定・認可という本件に及ぶか。検討する。
イ まず,都市計画決定・認可の仕組みにつき検討する。
都市計画決定(都市計画法(以下略)13条1項他[k2] )が行われた後,都市計画の告示(20条1項)がなされる。告示がなされた後は,区域内において建築物の建築をしようとする者は,都道府県知事の許可(53条1項)を受ける必要がある。さらに,その後都市計画事業を施行するためには「市町村が,都道府県知事」もしくは国土交通大臣の認可(59条1項・2項)を受ける必要がある。認可がなされた場合は告示(62条1項)され,告示後は都市計画事業の施行の障害となるおそれがある変更をしようとする場合は,都道府県知事の許可をける必要がある。計画段階では53条1項の許可は一定の要件を満たす限り許可をする義務(54条1項)があるので,認可がなされれば制限が重くなるといえる。したがって,計画・認可は別個の手続であるといえるとも思える。
もっとも,事業計画は認可を経て計画通りの事業を遂行するためなされるものであり,計画・認可を通じて目的は同一といえる。さらに,認可は計画を行った後の手続として予定されているものであるから,計画段階でその後の認可について相当程度具体化されている[k3] といえる。
さらに,事業計画の段階で計画予定地の「告示」(20条1項)がなされるのであり,告示によりのちに収用可能性がある土地として地価が下がるなどの実害が生じてしまう。
加えて,計画の処分性が認められなければ[k4] 許可を受けずに建築を行い,監督処分(81条1項)を受けたうえでその取消訴訟(法3条2項)を行う必要があるが,この方法はあまりに迂遠である。さらに,91条による罰則を受ける可能性もあり,危険性が高い。
ウ したがって,計画と認可は目的が同一であるうえ,計画段階で相当程度具体化されており,救済の必要性も高いといえる。
(3)よって,計画そのものに直接性があり権利変動があるといえる。
設問2
1 Q県が本件計画を存続させていることは適法か。以下,適法とする法律論,違法とする法律論を示し,いずれが適切か検討する。
2(1)適法とする考え方はQに計画存続についての裁量が認められるとするものである。すなわち,本件計画は「道路」(11条1項1号)についての計画であり,「定めることができる」との不確定文言で規定されている。さらに,都市計画区域の指定は行政の専門的判断に属する事項であるといえ(5条),どのような計画を定めるか,計画継続につき裁量が認められると考えるのである。
(2)一方,違法とする考え方はQの計画存続は裁量の範囲を超えるとするものである。すなわち,行政に裁量があるとしてもその範囲は無制限でない。裁量の逸脱濫用があれば裁量は違法である。そして,本件ではQが計画を存続させていることが裁量の逸脱濫用にあたるとする考え方である。
3 検討
(1)行政裁量の逸脱濫用に当たればその裁量は違法であり,取り消される(法30条)。裁量は①事実誤認により重要な事実の基礎を欠く場合か,または②他事考慮・考慮不足により社会通念上著しく不合理な判断がなされた場合に限り逸脱濫用があるといえる。
(2)ア 計画の実施予定地であるb地点とc地点の間では,基礎調査によれば1990年から2010年までの20年間で交通量が20%減少している。交通量の減少が人口の「空洞化」にあり,空洞化が解消される事情のない本件では将来的に交通事情が増加するとは考えづらい。しかし,Q県は2030年にはbc間の交通需要が2010年比で約40%増加するものと推計しその予測の下計画を存続させている。そして,道路を建設するに当たり交通需要は最重要の考慮要素といえる。
よって,当該予測は交通需要という①事実誤認により計画存続にあたって重要な事実の基礎を欠く場合にあたるといえる。
イ さらに,そもそも道路の建設にあたっては交通渋滞の緩和という交通需要の存在に合わせてインフラを供給すべきものである。ところが,本件では空洞化に歯止めをかけ街のにぎわい[k7] を取り戻すために本件区間を整備すべきという目的があるといえる。街のにぎわいを取り戻すために道路を建設するということは,需要作出のためにインフラの供給を行うものであるといえ,目的と手段が逆転しているといえる。したがって,計画存続の決定にあたって街のにぎわいを考慮することは他事考慮であるといえる。
加えて,認可のために必要な事業計画の申請書(60条1項3号)では,事業施行期間を定める必要がある(60条2項3号)期間を定める趣旨には合理的期間内に事業の執行を終わらせるべき旨が含まれるといえる。本件では計画は15000メートルの道路を建築するという大規模なものである。しかし,1970年に決定され,2010年段階でも40年が経過しており,明らかに合理的期間を徒過しているといえる[k8] 。
よって,本件計画は街のにぎわいを取り戻すためという他事考慮により,40年間計画を存続せることにより社会通念上著しく不合理な判断の下存続しているといえる。
(3)よって,裁量の逸脱濫用があるといえる。
設問3
1 PのQ県に対する本件支払請求は憲法29条3項を根拠とする損失補償請求である。憲法29条3項はそれ自体を根拠規定として補償請求を行うことができる規定である。
3(1)本件ではPに有利な要素としては①と③がある。
①について。PはQの計画存続さえなければ鉄筋コンクリート8階建ての建物を建て,マンション経営による利益を得ることができたといえる。制約の存在によりこれらの利益を得ることができなかったのである。このことでPに特別の犠牲が存在するといえれば,①は有利な要素としてあげられる。
(2)一方,Pに不利な要素としては①と②がある。
①について。特別の犠牲という要件を厳格に解することでPに不利になる。すなわち,特別の犠牲は特定の個人に生じる必要がある。本件では計画存続により不利益を受けるのはPのみではなく計画範囲に居住するすべての者であり,その意味で特別とは言えないとすれば,Pに不利な要素といえる。
②について。本件でPが受ける損失はいまだ発生していない。将来的な収益ができなくなったという損失があったとしても,計画存続それ自体による実損は存在していないのである。よって,財産権の本質を侵すとまでは言えないとすればPに不利な要素となる。
4 以上より,Pは,不利な要素である①特別の犠牲の評価,②財産権の本質につき主張立証することができればQに対する損失補償請求をすることができる。もっとも,損失補償は保障することにより社会全体の公平性を保つ制度であり,①特別の犠牲は狭く解する必要があること,②いまだ実損が存在していない場合にまで補償を行うことが社会全体の公平性を保つか疑問であることからすれば,Pの請求が認められることは困難である[k13] といえる。
*感想
設問1はもう少し書けた。判例を露骨に出す姿勢を出すべきであった。設問2・3はおそらくこのような出題趣旨であると思う。
設問2が評価されれば55点くらいだと思う。
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